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聖歌は生歌

聖歌は生歌

年間第5主日

《A年》
 99 しあわせな人
【解説】
 詩編112は、神に従う人、神の前に正しい人に与えられる豊かな恵み、祝福を歌い上げた、アルファベットの詩編
です。4節(詩編唱の3節)にある「光」は、世を照らす光、キリストを指していると言えるでしょう。
 答唱句は、冒頭から、5小節目の「喜びに」までは、八分音符の細かい動きと、四分音符+付点四分音符と八分音
符(2小節目のバスとアルト、4小節目のテノールとアルト)のリズムで、神の豊かな恵みを受ける人の、しあわせな
こころの喜びを、活き活きと表現しています。最後の3小節は、付点二分音符や二分音符という、長い音価の音符を
使って、この恵みに生きる安心感が表されています。さらに、「喜びに」では、旋律で、最高音のE(ミ)が用いられて、
強調されています。詩編唱は、最終音の2度上(一音上)のH(シ)から始まり、歌い始めやすくなっています。そし
て、次第に下降し、E(ミ)に至りますが、この音は、答唱句の冒頭の音と同じです。なお、詩編唱の最後の和音は、
E(ミ)-Gis(ソ)-H(シ)ですが、これは、和音の位置こそ違いますが、答唱句の最初の和音と同じです。ちなみ
に、この曲はA-Dur(イ長調)ですが、この和音は、主和音ではなく、五の和音です。答唱句が、主和音ではなく、五
の和音から始めることで、次の「しあわせな」に向かう動力となっています。
【祈りの注意】
 上にも書いたように、冒頭は、勢いを付けて歌われ始めます。最初の「し」は、マルカート気味で歌います。冒頭の
速度指定は、四分音符=112くらいとなっていますが、最初は、これよりもかなり早いテンポで歌い始めます。そう
でないと、答唱句の活き活きとした感じを出すことができません。この、速度は、答唱句の終わりの rit. したテンポと
考えてよいと思います。付点四分音符や四分音符の後の八分音符、すなわち「しあわせ」や「しあわせな」、「かみ
の」、「そのよろこび」が遅くなると、どんどんテンポが落ちてゆきますので、注意しましょう。なお、続く、連続する八分
音符もきびきびと歌ってください。「ひと」や「受け」の付点二分音符で旋律が音を延ばしているところは、しっかりと音
を延ばし、一瞬で息継ぎをして、次の四分音符を歌うようにします。この延ばしている間に、「ひと」ではバスとアルト
が、「受け」ではテノールとアルトが遅れてこのことばを歌います。ここでしっかりと延ばすことで、ひとまとまりの文章
である、答唱句がひとつの祈りとして継続されますが、早く音が切れると、この祈りが続かなくなります。答唱句の後
半は「喜びに」から、徐々に rit. して終わりますが、いつ、rit. が始まったか分からないようにできれば、最高です。
一番最後の答唱句(歌い終わり)は、最も、ていねいに rit. しましょう。
 ところで、この答唱句で歌われる、「しあわせな人」とは、だれでしょうか?実は、この答唱句を歌う、わたしたち、一
人ひとりがしあわせな人なのです。わたしたち一人ひとりが「神の恵みを受け、その喜びに生き」ているのでなけれ
ば、この答唱句が活き活きと歌われないのではないでしょうか?
 詩編唱は、3節と4節が歌われます。第一朗読のイザヤの預言では、「このようにすれば、あなたの光が輝く」と言
われており、それを受けて、詩編が黙想されます。この光は、自分自身の中にあるものではなく、わたしたちのうちに
おられるキリストです。洗礼を受け、神のことばとキリストの体に養われるわたしたちは、日々、イザヤが宣べ伝える
ように、ことばと行いによって、わたしたちのうちにおられるキリスト、キリストの光を輝かせるものとなり、それによっ
て、人々が、わたしたちではなく、神とキリストをたたえるようになるのです。
【オルガン】
 答唱句のことばや、闇の中に輝く光を表わすような、やや、明るめのストップを用いたいものです。基本的に8’+
4’で、会衆の人数によっては、2’を加えてもよいかもしれません。ただし、答唱詩編であることには変わりないの
で、派手なプリンチパル系の音は避けるようにしましょう。前奏の時に一番気をつけなければならないことは、祈りの
注意で書いたように、テンポが遅くならないことです。一般的に、会衆のテンポは、オルガンの前奏より、かなり遅く
なりやすいので、しっかりと、テンポを維持できるようにしましょう。
 答唱句が四声、または、二声で歌われる場合、それぞれの声部と、オルガンがきちんと合うようにすること。会衆が
斉唱で歌う場合も、オルガンの内声(アルトとテノール)がきちんと聞こえるようにして、延ばしている音の長さが、短く
ならないようにすることも大切です。

《B年》
 27 栄光は世界におよび
【解説】
 詩編147(ここでは前半)は、詩編集の最後にあたる《ハレルヤ詩編》の一つです。現在、『聖書 新共同訳』など
の底本となっている “Bibilia hebraica stuttgartennsia”(ヘブライ語)では、一つの詩編となっていますが、「七十人
訳(ギリシャ語)」や「ブルガタ訳(ラテン語)」では、1節-11節を詩編146(その前までの詩編も一つずつ番号が繰
り下がる)とし、12節以降を147としています。現在の研究では、この詩編を一つの詩と考えるヘブライ語の原典の
ほうが、正確と考えられています。
 この詩編は、全部で三つの部分に分かれていますが、それぞれのはじめの部分では、主(ヤーウェ)に対する賛美
のことばが語られています。第一部は1節-6節、第二部が7節-11節、残りが第三部です。第一部では主に、バ
ビロン捕囚からの救いのわざが、神の星への支配という形で、第二部では、豊作が雲に対する神の支配で、暗示さ
れて語られています。これは、周辺諸国で、星辰崇拝などが行われていたことと関係があると思われます。これらに
よって、この詩編は、捕囚からの解放と豊作という、歴史と自然の中で働かれる神をたたえています。
 答唱句は冒頭、音階の第三音から、上行音階の、しかもユニゾン(すべての声部が同じ音)で始まり、四声に分か
れる「世界」で、旋律は前半の最高音Cis(ド♯)に達しています。この間、バスは、「栄光は」から「世界」で、6度下
降跳躍しています。これは、作曲者が「時間と空間を超越した表現」として用いる、旋律の6度の跳躍の反行にあた
ります。これによって、また和音の広がりによっても、神の栄光の世界への広がりが現されています。その後の「世
界におよび」で、旋律は音階で属音E(ミ)に下降しますが、天におられる神の栄光が、世界(全地)に行き渡る様子
が示されます。
 後半、旋律は和音構成音で上行し、「かみ」で、答唱句全体の最高音D(レ)に達し、バスとの広がりも、2オクター
ヴ+3度という、原則として、もっとも広いものになり、神の栄光、神の偉大さが現されます。最後の「神は偉大」には
「-」(テヌート記号)が付けられており、これによって、このことばが一音節づつ力強く歌われるようになっています。
 詩編唱は、高音部のCis(ド♯)から力強く始まり、落ち着きと壮大さをもって、音階で下降します。
【祈りの注意】
 解説にも書いたように、答唱句は全体、力強く歌います。しかし、冒頭のユニゾンの上行音階は、cresc. したいの
で、最初から f では、後が続きません。最初は、やや、弱め(ただし精神は冒頭から力強く)で歌い始めましょう。「世
界に」で、前半の最高音になりますから、のどと胸を開いて歌いましょう。バスは、特に力強く、また、深い声で歌って
ください。その後、旋律は、いったん下降しますから、少し、dim. するとよいでしょうか。「すべてを」からは、また、上
行しますので「かみ」に向かって cresc. しましょう。最後の「神は偉大」は「-」(テヌート記号)がついていますか
ら、答唱句の中では、もっとも力強く、地面を踏みしめるように歌いますが、一つ一つが飛び出したようになってはい
けません。あくまでも、祈りとしてふさわしい、レガートの中でのテヌートであることを忘れないようにしましょう。
 テンポは四分音符=66ですが、あまり、早くなると、せっかちに聞こえます。力強さを現すためにも、雄大さが感じ
られるテンポを考えましょう。だからといって、冒頭のユニゾンがだらだら歌われると、全体のしまりがなくなります。こ
こは、階段を一気に駆け上がる気持ちで歌うとよいのではないでしょうか。
 詩編唱は、第一朗読のヨブ記と福音朗読の、本当に橋渡しのようなかっこうです。ヨブ記では人生の苦悩が語られ
ますが、詩編唱では、それを受けて「神は失意の人々を支え、その傷をいやされる」ことが述べられます。それは、イ
エス・キリストの到来によって、まず、シモン・ペトロの姑において、現実のものとなったのです。答唱句も、詩編唱も、
この、神の栄光の現われをたたえて歌われます。詩編唱を歌うかたは、この確信を、こころに刻みつけ、自らのものと
して歌ってください。それが、一回毎に、答唱句を、その確信によって、なお、力強いものとするからです。
 【オルガン】
 答唱句の性格からも、「創造主への賛美」という詩編の性格からも、明るいストップがよいでしょう。フルート系を基
本にして、黙想の妨げにならなければ、プリンチパル系を加えることも方法です。
 解説にも祈りの注意にも書きましたが、だらだらとした歌い方にならないためには、まず、オルガンの前奏が、最初
のユニゾンの部分をふさわしいテンポをとらなければなりません。かと言って、早すぎてもいけません。本当に、この
答唱句の祈りにふさわしいテンポを取るためには、何度も、繰り返してみることが必要になってくるかもしれません。
根気よく、ふさわしいテンポを探してゆきましょう。音が簡単な分、なおさら、準備が大切になってきます。
 最後のテヌート記号がついている部分も、一つ一つが飛び出したようにならによう、延ばし方、切り方を考えてくださ
い。

《C年》
 134 主をたたえよう
【解説】
 今日、歌われる詩編138は、「力を現して敵の怒りを退け」(7節)とあることから、イスラエルと対立する国との争い
が背景にあるのかもしれません。この、苦難からの救いに対し、作者は、神殿において、ともに礼拝する人々や神の
使い=天使の前で神をたたえます。詩編唱の2節の表現から、詩編作者が、神に救われたことを目の当たりにした
諸国の王も、その救いをたたえるように願います。
 この「主をたたえよう」はすべての答唱句の中で、最も多くの詩編唱が歌われます。答唱句は、詩編136:1〔13
1〕から取られています。この詩編は、グレゴリオ聖歌では復活徹夜祭に歌われます。八分の六拍子の答唱句の冒
頭は、トランペットの響きで始まります。なお、『典礼聖歌』合本では、最初、テノールとバスは、H(シ)ですが、『混声
合唱のための 典礼聖歌』(カワイ出版 2000)では、四声すべてFis(ファ♯)-Dis(レ♯)-Fis(ファ♯)-H(シ)-
Dis(レ♯)となっています。この、ユニゾンのほうが、力強い響きに聞こえると思います。
 「主をたたえよう」では、バスがGis(ソ♯)からFis(ファ♯)へ下降することで、ことばを延ばす間に、和音も二の和音
から四の和音へと移り、さらに「主はいつくしみ」までE(ミ)からDis(レ♯)へと深まります。その後は、旋律も和音も
落ち着いており、神のいつくしみの深さと限りないあわれみを穏やかなこころでたたえながら、答唱句は終わります。
 詩編唱は、冒頭、最高音のH(シ)から、力強く始まります。主に、詩編唱の1節全体で、一番重要なことばが多い
第三小節は、最も低いDis(レ♯)を用いることで、重厚さと、低い音への聴覚の集中を促しています。詩編唱の最後
は、主音Fis(ファ♯)で終わり、そのまま、答唱句へとつながります。
【祈りの注意】
 答唱句の旋律は、主音:Fis(ファ♯)⇒旋律の最低音:Dis(レ♯)⇒主音:Fis(ファ♯)⇒旋律の最高音:H(シ)と動
きますから、この旋律の上昇の力強さを、全世界への呼びかけの強さへと結びつけましょう。八分の十二拍子のこの
曲は、八分の六拍子の曲と同様に、八分音符ではなく、付点四分音符を一拍として数えましょう。「主をたたえよう」
の「た」を、心持早めに歌い、続く八分音符への弾みとすることで、全体のテンポが引き締まります。
 「たたえようーーー」と延ばす間、さらに cresc. を強めることで、呼びかけが、すべての国に広がるでしょう。このと
き、バスがGis(ソ♯)からFis(ファ♯)へ下降することで、和音が変わりますから、他の声部はしっかり呼びかけを続
け、バスは地球の裏側にまで、この呼びかけを深めるようにしましょう。その後、八分休符がありますが、この休符
は、次の「主」のアルシスを生かすためのものですから、きちんと、入れてください。
 この、「主」がアルシスで、よく歌われると、このことばがよく生かされるばかりではなく、続く、滑らかな旋律の信仰
告白が、ふさわしい表現となります。最後の「深く」の四分音符が、必要以上に延ばされるのをよく耳にしますが、そ
れでは、答唱句の重要な信仰告白のことばが、途中で途切れてしまい、答唱句全体のしまりもなくなります。ここ
で、やや、 rit. するからかもしれませんが、この rit. は、ことばを生かすためのものですから、「その」に入ったら、す
ぐにテンポを戻しましょう。あくまでも、「ふかくーその」は、八分音符三拍分の中であることを忘れないようにしてくだ
さい。
 最後は「そのあわれみは」くらいから徐々に rit. して、答唱句を締めくくります。「えいえーーーん」で、八分音符を
五拍延ばす間、まず、dim. (だんだん弱く=いわゆるフェイドアウト)しますが、きちんと五拍分延ばしてください。そ
の間、作曲者も書いていますが「神様のことを」、神のいつくしみの深さもあわれみも永遠であることを、こころに刻み
付けましょう。最後の「ん」は、「さーぃ」と同じように、「え」の終わりにそっと添えるように歌います。
 第一朗読は、有名なイザヤの召命の場面で、福音朗読の弟子たちの召命の予型となっています。詩編唱は、咎を
取り去られ、罪を赦され、神に代わって使わされるイザヤの感謝のこころを歌います。これは、キリスト者一人ひとりも
同じで、主キリストによって召しだされ、キリストとともに福音を述べ伝えるために遣わされています。この、詩編の祈
りによって、わたしたちは、主キリストから呼ばれたことを感謝し、福音を述べ伝える決意を新たにしたいものです。
【オルガン】
 勇壮な、トランペットの響きから始まる答唱句は、やや、華やかな伴奏にしてもよいかもしれません。ただし、答唱
詩編であることも忘れないようにしましょう。年間の答唱詩編ですので、基本的には、フルート系を用いて、会衆の人
数に応じて、プリンチパル系を組み合わせを工夫しましょう。前奏は、祈りの注意でも書いたように、テンポを引き締
めて弾き始めないと、会衆の祈りが、全く、答唱句の性格とはかけ離れたものとなってしまいます。そのためには、ま
ず、オルガン奉仕者自ら、この答唱句を、どのように歌い、祈るかを、しっかりと見につける必要があるでしょう。
 



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